僕が父親になって初めて招待された、幼稚園の演奏会。
ハクが発達検査を受ける前のこと。少しの不安を胸に抱えながらも、僕はその日を楽しみにしていた。 演奏会といっても、園児たちが扱うのはタンバリンやカスタネットといった小さな打楽器。けれど保護者にとっては大切な晴れ舞台。狭い講堂は、期待に胸を膨らませる大勢の保護者で埋め尽くされていた。その中に、僕の姿もあった。
拍手とともに幕が上がる。 そこに立っていたのは、呆然とした表情のハク。時折、不安そうに指をしゃぶり、やがてポケットに手を突っ込んで座り込んでしまった。歌うことも、楽器を鳴らすこともできず、最後には先生に抱っこされて舞台を降りていった。 その瞬間、前の席から小さな女の子の声が聞こえた。 「あの子、みっちゃんより赤ちゃんみたいだねえ……」 胸が締め付けられた。
周りの子どもたちは元気いっぱいに歌い、誇らしげに楽器を鳴らしている。隣に座る保護者は感動で涙ぐみ、何人もの親が我が子の成長に涙を流していた。 ──けれど僕の目には、呆然と立ち尽くすハクの姿しか映らなかった。
辛かった。 けれど、その姿を真正面から受け止めた瞬間が、父親としての出発点だったのかもしれない。
今になって振り返ると、「辛い」という言葉が本当に正しかったのかはわからない。
ただ一つ言えるのは──あの日の出来事は、僕の人生で自分自身のこと以上に胸を締め付けられた瞬間だったということだ。
今でも鮮明に思い出すのは、ただ立ち尽くす我が子の姿と、それを前にした無力感。
あの演奏会が「子どもの成長を見守る舞台」だとすれば──ハクにとっては違った。
そこにあったのは、成長の証ではなく、生きづらさを訴えるような小さなSOSだったのかもしれない。
自分のことなら努力で何とかできる。けれど父親としての僕は、あのときのハクに何もしてあげられなかった。
「どうすれば彼のSOSに応えられるのだろう……」
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