「遅くなっても大丈夫なので、今から園に来られますか?」
園長に呼ばれ、僕は一人で職員室を訪ねた。
そのまま空き教室に移動し、園長、若い担任の先生、そして学年主任のベテランの先生と、4人での話し合いが始まった。
園長は改めて僕の退園の意思を確認し、黙って診断書に目を通したあと、口を開いた。
「先生、ハク君はどうですか?」
担任の先生は迷いなく答えた。
「私は、やめなくていいと思います。むしろ園生活がハク君にとってプラスの刺激になるのではないでしょうか。」
園長がうなずくと、主任の先生も続けた。
「療育は、幼稚園を早退して通えばいいと思います。」
園長が僕を見て言う。
「だって。そうすれば?」
僕は園長の目を見て言った。
「このまま続けて年長になったとき、周りの子たちの成長にハクはますますついていけなくなるかもしれません。集団の場である以上、先生方や他のお子様に迷惑をかけてしまうと思います。」
園長は少し笑って、僕に言った。
「……子どもってね、迷惑をかけながら大人になるんだよ。あなたにも迷惑かけられたしね。」
僕が園児だった頃のことが頭をよぎった。
園長先生と一緒に遊んでもらったこと、園バスに乗った記憶。僕は思わず苦笑いした。
園長は続けた。
「ハク君自身が辛かったら辞めればいいと思います。でも今の時点で行き渋りがないなら、ここをひとつの居場所として考えてみてもいいんじゃないでしょうか。」
主任の先生もうなずきながら言った。
「園内でも泣いたりする様子は見られません。マイペースなのでお友達に指摘されることは確かにありますが、これからも他の子たちと同じように、大切な園児のひとりとして見守っていきます。」
こうして、「幼稚園と療育」二つの居場所で育つ時間が始まった。
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